分子ガストロノミー(分子調理)のハンバーグ店が品川にオープン!「分子調理の日本食」も発売早々人気沸騰で分子レベルの理解に基づいた科学と料理の邂逅が熱い!

みなさん分子ガストロノミー(分子調理)という言葉をご存知でしょうか.

日本ではまだあまり一般的な用語として普及していないと思いましたので,国内ではこの分野で先行していると思われる,分子調理研究会の会則の中からその意味を拾ってみましょう.

本会は、調理に関する現象を分子レベルで理解し、料理に対する新たな科学的知見を集積すること(分子調理学)、ならびに分子レベルに基づいた新しい料理、新しい調理技術の創成を目指すこと(分子調理法)を目的とし、大学、高等専門学校、機関・団体等の研究者・技術者、技術開発担当者、管理栄養士・栄養士、調理師・料理人、料理研究者、関連企業等の連携を通じて、分子調理学・分子調理法にかかわる振興と研究の活性化、および情報の活用推進と普及を図る。分子調理による料理のおいしさの増強、新しさの付与によって、人々の幸せに貢献することを目指す。

出典:分子調理研究会公式サイト

ざっくり言うと,分子レベルの理解に基づいた新しい調理のことを指します.

調理の分野に科学の力を取り入れ,食感を変えることによって新しい美味しさを生み出すことが,分子調理を進める原動力のようですね.

2021年5月31日に,品川港南口に,分子調理で仕上げる四角いハンバーグ専門店「歓喜の牛」がオープンすることで,何年か前から動き始めていた分子ガストロノミーの分野もようやくホットな話題に上る状況に近づいてきたように感じます.

そこで今回は,今月末オープン予定の「歓喜の牛」をはじめ,分子ガストロノミーの実際について,ざっくり俯瞰してみようと思います.




分子ガストロノミーで何がつくれるの?

分子ガストロノミーの分野は米国が先行していて,分子ガストロノミー関連のレシピ,キット,調理器具等,様々な周辺サービスが誕生してきています.まずは,分子ガストノミー本の著者のひとりである,ネイサン・ミアボルドが2011年に行なったTEDトークをご覧ください(日本語字幕表示可).

ネイサン・ミアボルドは,マイクロソフトの初代CTO.ビジネスの視点から,彼の分子ガストロノミーへの挑戦は,かつて日経電子版にも取り上げられました.

ネイサン・ミアボルドらからなるモダニスト料理チームは,分子ガストノミーの調理マニュアル「Modernist Cuisine:The Art and Science of Cooking」を著し,2010年のグルマン世界料理本大賞を受賞しました.その後「Modernist Bread」(既刊),「Modernist Pizza」(近刊)と続いて出版されています.「Modernist Pizza」は2021年10月発売予定で,すでに予約販売が開始されています.

分子ガストロノミーのフレームじたいは「Modernist Cuisine」にまとめられていて,今後様々な先進的な料理人たちの手によってレシピが開拓されている段階にあるのだとおもいます.コストと時間さえかければ,大概のものには応用可能でしょう.分子ガストロノミーの手法を取り入れて食感を変えることに価値があるとするならば.

料理人にとって荷が重いのが,分子ガストロノミーに必要な器具を準備するのに投資が必要ということでしょう.単価の安い料理店ではなかなか回収が難しいのではないでしょうか.分子ガストロノミーの料理を出すお店の価格帯が総じて高めなのは,コストを考えれば致し方ないところなのかもしれません.おそらく,分子ガストロノミーの知見を部分的に取り入れたものが徐々に普及して市場に浸透して行く流れになるのではと思っています.

分子ガストロノミーを簡単に始めるにはどうしたらいいの?

まずは,分子ガストロノミーの調理マニュアルを参照するのがよいでしょう.

日本語に翻訳したもの(Modernist Cuisine at Home:現代料理のすべて)が,2018年にKADOKAWAから出版されました.

ただし,残念なことに,KADOKAWA初のレストラン事業として2018年6月にオープンした分子ガストロノミーのお店,イヌア(KADOKAWA富士見ビル)がクローズしたこともあってか,本書も絶版になり結果として中古本が高騰しているようです.

版元のMolecularRecipes.comから,分子ガストロノミーにかんするレシピの動画が数多くアップされていますので,こちらも要チェックですね.

分子ガストロノミーでつくったマンゴー料理「inner mango」なんてのも見つけました.

日本語で読める本としては,他に以下のようなものがあります.





「分子調理の日本食」は日本食に応用した世界で初めての書籍で,2021年4月に出たばかりの新刊です.

発売早々,内容の尖りぶりにすごい反響が出ていますね.

次に,分子ガストロノミーにかんするキットが各種販売されていますので.こういったものを利用すると導入が比較的容易かとおもいます.

BASIC Modernist Cooking Made Easy Kit|Modernist Pantry

出典:Modernist Pantry 公式サイト

ULTIMATE Modernist Cooking Made Easy Kit|Modernist Pantry

出典:Modernist Pantry 公式サイト

Modernist Pantryのキットは,日本からでもModernist Pantryの自社ECサイトから購入することが可能です.

分子ガストロノミーに特化したレシピ本(Molecular Gastronomy Recipe Book)も出ています.



出典:Molecule-R. 公式サイト

Molecule-R.からはレシピ本のほか,各種キットも出ており,日本のAmazonからも一部購入できるようですが,在庫があるかどうかの確認が必要ですね.

それなりに値が張るので,身近なところからオライリーから出たばかりの「分子調理の日本食」の中身を一度チェックしてみてから,キットを買うかどうするか考えてみても良いかもしれません.

分子ガストロノミーの調理器具って市販されてるの?

分子ガストロノミーで何をつくるか決まらないと,何を準備するのかも決まらないとは思うのですが,日本のエバートロンという会社から,多機能分子調理器 Dr.Fry-2なるものが販売されています.

2021年3月10日放送のテレビ東京「よじごじDays」の「ランチに食べたい!飯うま居酒屋グルメ特集」コーナーで,亀戸の居酒屋土間土間では,ロースカツ定食のロースを揚げるのに分子調理器を用いることで揚げの質を高めているという内容が放送されていました.

私もかつて,ポテトチップスの製造現場でスライスしたジャガイモをフライヤーで揚げる仕事をしたことがありますが,油量はコストに大きく跳ね返ってくるだけでなく,油の質が美味しさに大きく影響してきます.これまで,勘と経験に頼ってきた揚げる工程を最適化し,ばらつきの少ない美味しい揚げ物が一定してつくれるというのは,かつてない価値だと強く感じます.

分子ガストロノミーは何も揚げ物に限った話だけではないのですが,分子ガストロノミーに必要な器具を準備するのに投資が必要なので,単価が安くても調理にかかる原価比率が高いものをいかに美味しさを保ちながらも下げられるかといったところが飲食業を続ける上での鍵となってきますので,揚げ物から入るというのは,個人的には非常に「筋が良い」アプローチだと感じました.

分子ガストロノミーの情報ってどこから得れば良いの?

分子ガストロノミーに対し特段の関心をお持ちであれば,先述の分子調理研究会にあたってみるのが一法かと思います.

分子ガストロノミーはどこで食べられるの?

分子ガストロノミーにはどうしても初期投資がかかるため,先述の揚げ物のような例を除くと高単価の料理に普及が偏りがちです.実際に分子ガストロノミーを導入していることで知られているお店はいわゆる高級店が多いようです.では,どういったお店があるのか,いくつか例を追って挙げてみましょう.

分子ガストロノミーのお店|タパス モラキュラーバー(東京・日本橋)

分子ガストロノミーのお店であることを店名にも反映させるなど,国内でも数少ない「分子調理法」を用いた料理が味わえるお店として名が知られています.

分子ガストロノミーのお店|レストランエール(東京・銀座)


「科学が創造する新しい味おいしさと驚きの料理を作るサイエンスレシピ」の中で紹介されています.

分子ガストロノミーのお店|モリキュール(東京・上野)

和食の分子ガストロノミーを全面的に押し出したお店です.






出典:合同会社 俄 プレスリリース

「分子調理の日本食」が出版されたとはいえ,まだまだ和食の分子ガストロノミーのお店は希少ですので,今後どのような展開になるのか,コロナ禍の厳しい状況下での動向が気になるところではありますね.

分子ガストロノミーのお店|SECRETO(東京・神楽坂)

ここも,モリキュール同様,エンターテインメント性で魅せる分子ガストロノミーの美食ショーが売りとなっています.

分子ガストロノミーのお店|歓喜の牛(東京・品川)

2021年5月31日にオープン予定のハンバーグショップです.

『歓喜の牛』は伝統的な調理法と最新のテクノロジーが合わさり生まれた、新時代の王道ハンバーグ専門店です。
当店のハンバーグは黒毛和牛を含めた数種類の独自配合で、牛が持つ旨味を十二分に引き出します。
当店オリジナルの比率で牛のさまざまな部位を配合し、程よい弾力と柔らかさを兼ね備えたジューシーなハンバーグが完成しました。

通常、ハンバーグというと楕円形が一般的ですが、当店ではフランス料理でよく用いるテリーヌ型等を用いて直方体に近づけています。
そうして成形したパティをいきなり焼き上げるのではなく、時間をかけてじっくり熱を通したのち、専用の器具を用いて分子調理を行います。
このような調理方法によって、パティから水分が大幅に失われることを防ぎ、隅々まで旨味を閉じ込めることができます。

品川の食肉市場のすぐ近く,ジューシーかつ牛の旨味を強く感じる味わいだそうですので,機会があればぜひ行ってみたいと思います(K.T).