冷凍チャーハンで食中毒!? 手強いセレウス菌のリスクを減らしチャーハンシンドロームから身を守る調理法

「チャーハンシンドローム(Fried Rice Sydrome)」をご存知でしょうか.

チャーハン=>グルタミン酸ナトリウム=>中華料理症候群のこと?と思われる方もおられるかも知れませんが,そうではありません.セレウス菌(Bacillus cereus)が生成した毒素を含んだチャーハンを食べたことによって生じる食中毒のことを指しています.

2011年のScallanらの報告によれば,米国ではセレウス菌により年間63,400件の食中毒を引き起こすと推定されており,しかも患者の死亡につながる重度の感染症例が比較的少ないため報告されていないケースが多く,実際にはもっと多くの食中毒が発生している可能性があると言われています.

そこで今回は,日本テレビ「ザ・世界仰天ニュース」でも話題になった,チャーハン(特に冷凍チャーハン)の食中毒とその回避方法についてご紹介します!




芽胞とよばれる殻状の細菌胞子をもつセレウス菌は熱に強くて滅菌が難しい

冷凍チャーハンやピラフのような焼き飯,焼きそば,スパゲティのような麦を原材料とした麺類では,セレウス菌による食中毒がよく知られています.


Photo by 東京都福祉保健局

セレウス菌は土壌中にひろく生息している細菌です.
芽胞とよばれる,煮沸や冷凍,乾燥,アルコール消毒などでも完全に死滅させることができない,硬い殻のような構造物をもっています.そのため,調理の際に十分加熱を行なわなかったり,室温でそのまま放置したりすると,食品中に含まれているセレウス菌が増殖します.

そこで,セレウス菌からつくり出されたセレウライドとよばれる嘔吐を主症状とする毒素が蓄積し,これが食中毒のもととなります.

水分含量の多い海鮮チャーハンなどは,特に気をつける必要があります.市販の冷凍チャーハンを非加熱では絶対に食べないようにしましょう.容量が多い場合は,電子レンジの温めむらにも要注意です!

Keeping hot foods hot (above 140 degrees Fahrenheit, or 60 degrees Celsius) and cold foods cold (lower than 40 F, or 4 C) is vital for decreasing the risk of contracting a B. cereus illness, according to the U.S. Department of Health and Human Services. Reheating or freezing any foods that have been left out for more than 2 hours may not prevent illness.

“Bacillus cereus naturally colonize on uncooked rice grains,” Tierno said. The spores produced by the bacteria “easily survive the cooking process and grow best at room temperature.”

Reheating foods to temperatures at or above 165 F (74 C) for 15 seconds will kill the cells but not the toxins, if they have already formed, according to 2017 article from the Institute of Food and Agricultural Sciences at the University of Florida. If any food is suspected of being contaminated, it should be thrown out.

出典:Bacillus Cereus: The Bacterium That Causes ‘Fried Rice Sydrome’|Live Science

米国保健福祉省(U.S. Department of Health and Human Services;HHS) では.

60℃以上,もしくは-4℃未満に保つ

ことは,セレウス菌による食中毒のリスクを避けるためには不可欠であるとしています.ただし,2時間以上室温で放置された食品を再加熱または冷凍しても,食中毒を避けることができない場合があるというのが,とても厄介なところなのです.

チャーハンの食中毒から身を守る|セレウス菌は土壌から

セレウス菌は土壌中に広く存在し,穀物や野菜を汚染しています.
冷凍チャーハンで問題になっている食中毒は,主にセレウス菌の増殖により,通常の加熱調理では失活しない特性をもつ「セレウライド」によるものと考えられています.原料の穀物に含まれるセレウス菌は耐熱性の芽胞を形成し,原料加工の段階でセレウス菌フリーにできないため,加熱調理後は,加熱後速やかに食べるか,保温の場合はセレウス菌の増殖しない温度(60℃以上,もしくは4℃以下)を保つかするしか手のうちどころがないというのが現状です.

日本ではどの程度周知されているのかわかりませんが,調理加工済みの米加工食品等,デンプンの多い加工食品は食中毒のリスクが高いとされています!

お米が危ないというのは,主食がコメの日本人にはにわか信じ難いかもしれませんが,特に冷凍チャーハンのような米加工食品でセレウス菌が増殖する環境下で保存することで,毒素が指数関数的なスピードで増加し,食中毒の危険に身をさらすことになるのです.

ノロウイルスやカンピロバクターと比べれば食中毒の絶対数は少ないものの,いくら注意してもしすぎることはないと思います.

チャーハンの食中毒から身を守る|いったん調理したものを保存するには冷蔵か60℃以上に

つくりおきは食中毒の大きな原因となります.

セレウス菌が毒素を大量に出す前に,調理後できるだけ早く食べるようにすること.それによって,食中毒のリスクを押さえることができます.
どうしてもいったん調理したものをあとで食べるという場合でも,常温保存はもっとも危険です.

冷蔵保存か60℃以上の温めた状態で保存し,かつできる限り早く再加熱して食べるようにしましょう.時間がたったものは,思い切ってなげるくらいの潔さも,食中毒から身を守るためには必要なことです.

食品安全委員会も,ファクトシートを作成して食中毒にかんする注意喚起を行っていますので,参考にするとよいと思います.


出典:内閣府 食品安全委員会

チャーハンの食中毒から身を守る|HACCP(ハサップ)の考えを家庭にも取り入れよう

国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(CODEX)委員会が, CODEX(コーデックス)とよばれる食品の国際的な規格を定めました.HACCP(ハサップ)は,CODEXの中の一部で,食品管理のスタンダードといえるものです.

HACCPは,もともと食品事業者向けにつくられたものです.それと同様の考えを家庭に取り入れることによって,日々の食の安全につなげることが可能です.

室温がセレウス菌の増殖に適している6月から10月の時期は,食中毒の事案が多く発生する時期ですので,特に気をつける必要があります.

1.冷凍チャーハン,冷凍ピラフなどの冷凍食品は,持ち帰ったらすぐに冷凍庫に保存しましょう
2.調理を途中で中断して室温でそのまま放置するのは危険ですのでやめましょう
3.特に電子レンジで加熱する場合は加熱むらに注意しましょう
4.調理の前,食事の前には必ず手を洗いましょう
5.残ったものはきれいな容器に入れて冷蔵もしくは60℃以上で保存しましょう
6.温め直しの際にも十分再加熱しましょう
7.ちょっとでも怪しいとおもったら,惜しいと思わず身の安全のためになげましょう

市販の冷凍チャーハンの量が多いと思ったら,面倒でも全量温めて残りを保存するのは避けたほうがよいです.必要量だけを加熱して,残りは包装から出さずにそのまま冷凍庫に保存するのが良いでしょう.

家庭用の冷凍庫は霜取りのために凍結融解を繰り返すような仕様になっていますので,冷凍保存といえども長期にわたって同じ状態で保存されているわけではありません.買いすぎにも注意して,賢く安全な食生活を送りましょう.

私自身もどちらかというとものぐさなほうですが,中途半端なことで食中毒にはなりたくないので,ポイントは押さえるように心がけるようにしています.(K.T)