美食探訪と健康は相容れない?NHKスペシャル「食の起源」シリーズ最終回で美食を取り上げる【NHKスペシャル】

11月24日から始まったNHKスペシャル「食の起源」シリーズ(全5回)が,2月23日に最終回を放送しました(再放送:2月26日(水)AM0:35~).
最終回のテーマは「美食」.「美味しさ」は「健康」よりも上!?
健康を犠牲にしてまで美食にのめり込む人間の性が非常に興味ぶかい内容でした.

おいしさを感じる3つの特殊能力その1:苦味の克服

苦味は,人間にとって毒であることのシグナルとして脳に伝えます.しかし,「苦くない」という情報を事前に伝えられることによって,苦味があっても脳が「苦くない」と判断することが明らかになっています.さらに,過去の記憶を紐つけて「毒ではない,体にとって良い苦味」であると脳が判断すると,「美味しい」と感じるというのです.

京都大学霊長類研究所の今井啓雄らは「霊長類苦味受容体の機能的多様性」というタイトルの総説を記しています.

霊長類苦味受容体の機能的多様性|比較生理生化学

ヒトには,TAS2Rとよばれる苦味受容体が存在しています.TAS2Rは.その様々なレベルにおける多様性が注目されている受容体で,ヒトには26種類ものTAS2Rが存在し,1000種類以上の苦味成分を受容することができると言われているそうです.ヒトが他の動物種と比べて多くのTAS2Rを有している理由が,進化の過程において様々な食性を獲得することが重要であったためというのです.

田楽豆腐,みたらし団子,いわしの水煮などにコーヒーの濃縮液をかけると,苦味で味に深みがあると番組の中で放送されていましたが,これも進化の過程でたまたま獲得したTAS2Rの多様性のなせる技と言えるのかもしれません.

おいしさを感じる3つの特殊能力その2:進化による鼻腔の変化

人間の嗅覚センサーは,舌の味覚センサーの10倍の約1,000万個.もともと夜行性だった哺乳類は,恐竜が絶滅し昼行性になったことから,嗅覚神経はそのままで鼻腔が短くなって口腔とつながり,嗅覚センサーの多さも相俟って,香りによる味覚を舌の味覚よりも優先するようになりました.肉を火に焼いて食べられることを経験することで,舌よりも嗅覚で食欲をかきたてられる「美食モンスター」と化したのです.人間の食に関するエポックメイキングな出来事が「火による調理」と言っても過言ではないでしょう.

おいしさを感じる3つの特殊能力その3:他人の味覚による共感

いわゆる「飯テロ」の原点ともいうべきものだと思います.
他人が美味しそうに食べているのを見て,釣られて食べて美味しいと思うようになるという「共感」の能力です.
さらに,同じものを食べるにしても食べる前に伝えられた料理名が違うと,美味しさも変わりうるということも言われていました.「低脂肪」「健康」といったワードは「美味しさ」につながらず,「ダシたっぷり」「創作」といったワードだと「美味しさ」につながるというもの.つまり,単に味覚や嗅覚だけでなく,あらかじめ与えられた情報によってもおいしさを左右しうるということでした.

喫緊の例でいうと,数量限定「カルビーポテトチップス これは何味?」がそれに当たるのかもしれません.
2月24日放送の日テレの朝の人気番組「スッキリ!」で取り上げられていましたが,原材料を見てもなかなか味が推定できません.結果的に,ハリセンボンの春菜さんが一番近い答えを出していましたが,あらかじめ情報が与えられない状況の中ではなかなか「美味しさ」がイメージできないようです.案外,「脳で」美味しさを固定化して食べているのかもしれませんね.

「カルビーポテトチップス これは何味?」の正解発表! サラダにのせてもおいしそうなあの味でした|ネタとぴ
カルビー『ポテトチップス これは何味?』を実食! 編集部で味名当てに挑戦っ!!|APPBANK
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参考:
料理を「おいしい」と感じる脳の仕組みとは?|NHKスペシャル 食の起源
人はなぜ“おいしさ”なしに生きられないのか? 人類を“美食モンスター”にした「3つの特殊能力」|NスペPlus


最近では「健康美食」なるものもキーワードになってきているようです.健康と美食は,必ずしもトレードオフではなくなってきているのかもしれませんね.(K.T.)