ゲノム編集食品の機能性は?ゲノム編集トマト青果物がいよいよ販売開始

ゲノム編集食品という言葉を聞いたことがある方はどのくらいおられるでしょうか.

ゲノム編集食品とは,

特定の遺伝子を狙い撃ちして改変を加え、時にはその機能をなくす

ゲノム編集技術を用いてつくられた農作物や魚介類,あるいはそれらを原材料に用いた加工食品のことを指しています.

既存の遺伝子組換え(GM)とは異なり,

ある生物から目的とする遺伝子を取り出し,別の生物のゲノムに導入することでその生物に新しい性質を付与する

のではなく,

ゲノム上の特定の位置に特定の変異を起こす

ことによって,機能性をもたせたり,耐病性を付与したりする技術です.

参考:ゲノム編集技術について|バイオステーション(https://bio-sta.jp/faq/)

遺伝子組換えにはなかった特徴として,

特定の遺伝子を狙い撃ちして改変を加え、時にはその機能をなくす

ことができることから,品種改良のスピードが格段に早くなります.


出典:メルク プレスリリース

日本にいると気づきにくいことかもしれませんが,気候変動や耕作地の砂漠化,農業に従事する人口の減少といった様々な要因から,これまでどおりの食糧生産が次第に難しくなってきています.世界的なニーズとしては,気候変動に適応して安定的に多収で病害性に強い品種が求められているほか,QOLの向上という観点から,高い機能性を有する品種に対するニーズも高まっています.ゲノム編集は,品種改良に革命をもたらす新技術で,例えば同じ食材であっても栄養価が高いものを食べたいというニーズに寄り添った品種を従来よりも短期間でかつ,精度よく生み出すことを可能にしました.

食品関係とは直接関わりがない方では,まだ遠い未来の技術と思われている節もありますが,既に日本でも実用化された品種も登場してきており,消費者が選択できる形で市場に出回る日も目前です.まだゲノム編集食品に対応する品種は限定的で,日本全国に広く流通するまでには時間を要するとは思いますが,今からでもゲノム編集食品について知っておいても損はないと思います.




品種改良の方法の一つでもあるゲノム編集食品の機能性は?

特定の遺伝子を狙い撃ちして改変を加え、時にはその機能をなくす

ゲノム編集技術をもちいてつくられたゲノム編集食品は,従来の品種よりも特定の栄養価が高くなったり,食味が改善されたり,様々な形質を変えていく可能性を秘めています.

スーパーなどでは,遺伝子組換えを含まないというキャッチフレーズで販売されている食材もあり,ゲノム編集食品と混同してしまいがちですが,端的に言うと,これまで試行錯誤で行ってきた品種改良を,ゲノム編集のツールを活用することによって,狙った形でより迅速に行えるということに尽きます.遺伝子組換えの場合は,外から導入した遺伝子がゲノムの中に残らないと機能を発揮することができませんが,ゲノム編集の場合はいったん外から導入した遺伝子をゲノムの中に残らないようにすることが可能です.

そのため,食品分析を行っても,遺伝子組換えと異なり,ゲノム編集で生み出されたものかどうかの判別はつかないということになります.

遺伝子組換え技術は,生産者ニーズを満たすことが目的で使われることが大半ですが,ゲノム編集技術は,特に日本においては第一義に消費者ニーズを満たすことを狙っているというのも大きな違いと言えます.そのため,ゲノム編集は消費者にとっても直接的に嬉しい技術ということが言えるかとおもいます.

サナテックシードがゲノム編集されたトマトに注目


出典:サナテックシード ウェブサイト

筑波大学の江面浩教授が生み出した研究シーズをパイオニアエコサイエンスが商品化する形で誕生したスタートアップ企業のサナティックシードが,2021年にゲノム編集したトマトの種子の販売を開始しました.

目標は,ゲノム編集されたトマトを市場に流通させることで,現在は目標達成目前というところまでたどり着いています.

サナテックシードのゲノム編集トマト「シシリアンルージュハイギャバ」は,従来のトマトに比べ,多くのGABAが含まれているという特徴があります.

GABAの成分は,もともとトマトに含まれている機能性成分のひとつですが,ゲノム編集によって通常の4~5倍ほど多くのGABAが含まれているとされています.GABAは,血圧を下げる効果がある成分で,高血圧が気になる方々にはおすすめの食材と言えますね.

高血圧が慢性的に続いてしまうと血管に負荷がかかってしまい,様々な病気の原因となります.高血圧は,様々な生活習慣病に共通する,循環器系疾患の大きな課題です.ゲノム編集によってGABAを多く含む機能性のトマトは高齢者,もしくは高齢者予備軍の方々にとっては救世主とも言える存在となりえます.

トマトには,もともとさまざまな栄養素が含まれており,リコピンなどが有名です.もともと美容効果があるリコピンが含まれ,健康や美容に良いとされているトマトが,リコピンやGABAといった機能性成分の宝庫として,より健康食材として注目度が高まることは,容易に想像することができます.

2021年9月15日,いよいよパイオニアエコサイエンス社を通じて,「シシリアンルージュハイギャバ」の販売が開始されました.

リージョナルフィッシュがゲノム編集した魚介類開発に着手


出典:リージョナルフィッシュ プレスリリース

スタートアップ企業のリージョナルフィッシュは,京都大学の木下政人助教をCTOとして取り込み,ゲノム編集技術を魚類の品種改良に生かし,超高速の品種改良によって,持続可能なスマート水産業を進めていこうと日々研究を重ねています.

これまで,水産業は育種,畜養という分野において農業以上に技術導入が遅れていました.水産資源は年々枯渇の一途を辿り,魚群を把握して獲る水産業から,高度に管理された安定的な畜養中心の水産業へと,急速な変化が求められています.

リージョナルフィッシュは,ゲノム編集とIoTを組み込んだ新しい養殖に力を入れ,水産資源の枯渇に比例するかのように衰退してきた水産業に近代化の知を取り込み,新しい風を吹き込もうとしています.

ゲノム編集食品の課題解決をして実用化へ

ゲノム編集食品には,技術的なハードルを越えることができても,本格的な商業化にはまだハードルが残っています.既存技術でも,生育条件に負荷をかけることによって高GABAトマトがつくれるのに,なぜわざわざ新技術であるゲノム編集技術を用いた高GABAトマトが必要なのかというところの説明も必要かもしれません.

科学的には安全とされているゲノム編集食品ですが,安全と安心とはまた違うことであり,いくら安全と言われても,理解が難しいと感じる人たちの中まではなかなか受け入れられていかないかもしれません.

一時期,ゲノム編集食品がマスコミを賑わしていた時期もありましたが,その後関心が薄れたのか,過去ほど取り上げられていないような印象も持ちます.
いまだに遺伝子組換えとゲノム編集の見分けがつかない消費者も多く,食品分析を行っても,ゲノム編集で生み出されたものかどうかの判別がつかないというところに不安を感じる方も少なからずおられます.

高GABAトマトをはじめ,ゲノム編集技術を用いた食品が流通するのは時間の問題だとは思いますが,急速に普及し食卓に広く浸透するまでにはまだしばらく時間がかかりそうですね(K.T).