パンや中華麺の原材料として使われ始めた国産小麦の「ゆめちから」その特徴は?

ゆめちからは,日本の気候に適した特性をもった強力コムギです.ゆめちからの登場により,ナショナルブランドのパンや中華麺の原材料として,国産コムギが積極的に利用されるようになりました.


ゆめちからは秋まきで安定的に収穫できる「超強力」小麦粉品種

小麦粉は,グルテン含量の多いものから順に,強力粉,中力粉,薄力粉の3種類に分けられます.

それぞれ原料となるコムギの種類が異なり,特にタンパク質を多く含み,粘りや弾力性に富む強力粉に適したコムギの作付けは,国内ではなかなか進みませんでした.

強力粉に適したコムギの作付けが国内で進まなかった理由は,強力粉に適したコムギの多くの品種が春まきで,梅雨の高温湿潤な気候がコムギ栽培の障害になっていたところにありました.

そこに西洋コムギと国産コムギのかけあわせによって生まれた秋まきのキタノカオリ(2003年に道の優良品種に採用),そしてキタノカオリの後継品種として超強力粉品種のゆめちからが2008年より開発導入され,収量の高さ,つくりやすさ等も相俟って,国内産コムギながらパンや中華麺の原材料として安定的に生産されるようになりました.海外産のコムギを使わずに美味しいパンがつくれるようになったのはまさに育種のチカラによるものですが,国内産コムギからはうどんしかつくれないと言われていた時代から考えると,隔世の感があります.

ゆめちからを用いたブランロールでロカボ

原料コムギの外皮(ブラン)を配合した全粒粉を用い,糖質やカロリーを抑えられるメリットを打ち出した「ブランロール」が,各社より販売され,注目を浴びています.近年のゆめちからの作付け面積の増加に伴い,従来原料として用いられてきた輸入コムギの代わりにゆめちからを用いて,積極的に国産コムギとしてのゆめちからを使用していることを全面に訴求して販売する製パンメーカーも登場してきました.とくに,ゆめちからは「超」がつくほどの強力コムギであるが故に,全粒粉を用いているにも関わらず,その特徴ある粘りがぱさぱさした食感になることを防いでいます.

パンというと糖質の塊と捉えられて,今時は敬遠する向きもあるのかもしれませんが,食べ方の工夫次第でロカボにもなるのですよね.

ゆめちからの登場が生んだコムギのブランド化

ゆめちからの登場以前は,コムギにおける品種のブランド認知はほとんどなされていませんでした.ところが,特徴ある品種特性を生かして,ゆめちからを使用していることを表示した加工食品の販売点数が増加しています.大手中華料理チェーンのお店でも,ゆめちからを使用していることをのぼりに掲げ,使用小麦粉の国産化を進める動きが出てきています.ゆめちからの普及はまだ途上であるとはいえ,これまでになかったコムギ品種のブランド化に,ゆめちからの登場が寄与したのは間違いないでしょう.

私自身も,コムギそのものが湿度に弱く,高品質でかつ安定的な収穫が難しいが故になかなか拡大せず,結果として,多く消費されるパンや中華麺の原材料を国産コムギで賄えないという現状を忸怩たる思いをもって見てきました.ゆめちからは,主にうどん原料に作付けされてきた中力品種とブレンドすることによって,中力粉の新たな販路を見出すきっかけになるものと期待しています.あとは,主に十勝でつくられているゆめちからを用いて製造されたパンが道内で入手しづらいという流通の問題も解決に向けて動いて欲しいと願っています.(K.T.)