【研究論文】「ラクトフェリンが新型コロナウイルス肺炎の予防と治療に有用である可能性」

☆☆ラクトフェリンの新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) に対する効果は仮説の検証段階であって,現段階において科学的に証明されているわけではありません☆☆

Reseaerch Gateに,査読(ピアレビュー)前の論文(プレプリント)として「ラクトフェリンが新型コロナウイルス肺炎の予防と治療に有用である可能性」と題する論文原稿が,4月4日にウェブ上に公開されました.

Lactoferrin as potential preventative and treatment for COVID-19 | ResearchGate

これはプレプリントながら,世界的な感染拡大が懸念されている新型コロナウイルス肺炎に対する緊急かつ重要な示唆に富む内容と考えましたので,かいつまんでご紹介したいと思います.


ラクトフェリン(LF)は従来のコロナウイルス(SARS-CoV)が細胞内に侵入することを阻害する

ウイルスの細胞への結合に大きく影響する因子として,細胞表面にあるヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)が知られています.


Figure from PloS One

ラクトフェリン(LF)は,マウス(de Haan et al., 2005),ヒト(Milewska et al., 2014)およびシュードタイプの従来のコロナウイルス(SARS-CoV)(Lang et al., 2011)について,宿主となる細胞表面にあるHSPGへの結合を介して,ウイルスが細胞内に侵入することを阻害することが実験的に明らかになっています.

Murine Coronavirus with an Extended Host Range Uses Heparan Sulfate as an Entry Receptor | Journal of Virology

Human coronavirus NL63 utilizes heparan sulfate proteoglycans for attachment to target cells | Journal of Virology

Inhibition of SARS pseudovirus cell entry by lactoferrin binding to heparan sulfate proteoglycans | PloS One

ただし,新型コロナウイルス肺炎COVID-19の原因ウイルスである,ヒトのSARS-CoV-2に対するラクトフェリンの影響とその宿主細胞への侵入に関して言及した報告はまだありません.

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)も従来のコロナウイルスと同じ感染のモデルを仮定することが可能である

しかしながら,細胞表面にあるHSPGの役割について,現在受け入れられている「ウイルスサーフィン」モデルを用いた場合 (Burckhardt & Greber, 2009),SARS-CoV,SARS-CoV-2双方のスパイクタンパク質の構造の相同性と,細胞侵入において同じACE2受容体に依存する(Hoffmann et al., 2020)ということから判断して,同様の感染メカニズムを仮定しても差し支えないだろう,と著者のChangらは考えています.


Figure from Cell

Virus movements on the plasma membrane support infection and transmission between cells | PLoS Pathogens

SARS-CoV-2 Cell Entry depends on ACE2 and TMPRSS2 and is blocked by a clinically proven protease inhibitor. | Cell

したがって,ラクトフェリンはSARS-CoVの場合と同様に,用量依存的に(使用量が増えれば効果が高まって)SARS-CoV-2の細胞への侵入を阻害できる可能性があります (Lang et al., 2011).

Inhibition of SARS pseudovirus cell entry by lactoferrin binding to heparan sulfate proteoglycans | PloS One

ラクトフェリンのもつ免疫調節機能と抗炎症機能が新型コロナウイルス肺炎の治療に有用な可能性がある

ラクトフェリンの生物活性に関するもうひとつの主な側面として,ラクトフェリンがもつ免疫調節機能と抗炎症機能が挙げられます.
ウイルス感染症において,多くの場合,免疫応答と炎症の大きさが疾患の重症度に寄与しており,特にCOVID-19の場合は強い関連性が認められています.

現段階では,COVID-19による死亡は,単にウイルス感染によるものではなく,急性呼吸困難と,その後の死亡につながる過炎症に関連する,特定患者における「サイトカインストーム症候群」の結果によるものと示唆されています(Mehta et al., 2020).

COVID-19: consider cytokine storm syndromes and immunosuppression | Lancet

重度のCOVID-19の症例において,サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン-6),腫瘍壊死因子-α(TNF-α),フェリチンなどの増加が特徴的にみられます.

ラクトフェリンは,
IL-6(インターロイキン-6)および腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を減少させ(Zimeckiet al., 1998),敗血症をシミュレートした条件設定で,フェリチンを減少させる(Rosa et al., 2017)
ことが示されています.

Lactoferrin lowers serum interleukin 6 and tumor necrosis factor alpha levels in mice subjected to surgery | Archivum Immunologiae et Therapiae Experimentalis

Lactoferrin: A natural glycoprotein involved in iron and in ammatory homeostasis | International Journal of Molecular Sciences

よって,

ラクトフェリンがウイルス感染に対する過剰な免疫反応および炎症反応を抑制できるという仮説が正しい場合,ラクトフェリンはCOVID-19の重症症例に対する補助治療の候補物質になる可能性があると考えられる

と著者らは主張しています.


この研究は,査読前のプレプリント(論文のドラフト)です.そのため,査読しだいでこのままで論文に採択されるとは限らない内容であることをご了承いただければと思います.
いずれにせよ,今後ラクトフェリンが新型コロナウイルス肺炎の予防と治療に有用であると結論づけられれば,さらにラクトフェリンに対する注目度も向上していくものと期待されます.

ラクトフェリンに関しては別記事もありますので,よろしければお読みください(K.T).

【情報更新】ラクトフェリンの効果に注目!免疫力を高めて新型コロナウイルスの感染に備える(中国国家衛生健康委員会「新型冠状病毒感染的肺炎防治栄養膳食指導」を追記)