ジビエと寄生虫・ウイルスとの悩ましい関係 ジビエの生肉を食べてから6か月間は献血できなくなる理由とは?

献血に行って,ジビエ(野生鳥獣)の生肉を口にした人は,食べてから6か月間は献血できませんと言われた経験はありませんか?

私はあります.


出典:日本赤十字社ウェブサイト

これまで,生肉にせよ,よく焼いた肉にせよ,ジビエを口にする機会はありませんでしたから,ほとんど気にすることがなかったのですが,道内のスーパーの食品売り場をよく観察すると,特に飲食店まで足を運ばなくても近所のスーパーにジビエのお肉が並んで売られていることに気づかされます.

有害駆除の動物利活用と地域振興の流れから,ジビエが一般に流通するようになってきたものと思料しますが,安全管理された餌を与えられて育てられたブタやウシといった家畜以上に,屠殺されるまでにどのようなものを食べてきたのか履歴が追えないジビエにおいては,ウイルスや寄生虫などの病原体によるリスクが相対的に高いのです.

そこで今回は,ジビエと寄生虫・ウイルスとの悩ましい関係について,食品安全の観点から考えてみたいと思います.




ジビエと寄生虫・ウイルスとの悩ましい関係|ジビエが原因で発生した感染症(特にE型肝炎)

外見的には健康な野生鳥獣でも,腸管出血性大腸炎,サルモネラなどの病原細菌,E型肝炎ウイルス,さらに様々な寄生虫を保有していることがある.近年,大きなニュースとなったジビエを原因とする感染症例では,その多くが生または加熱不足のジビエ肉を原因としている.したがって,ジビエの生肉は大変危険であり,絶対に避けなければいけない.

出典:吉村悦郎・関崎勉共著「食品の安全」(放送大学教育振興会,2021)

赤十字血液センターは,ジビエを原因とする感染症の中でもE型肝炎ウイルスによる感染を特に気にしています.これは,献血により採取された血液製剤がもとで輸血後のE型肝炎症例が報告されたことが大きな要因です.

【E型肝炎とは】
ウイルスに汚染された水や食べ物から感染するウイルス性肝炎です。 感染源となる食べ物は、日本では加熱不十分なブタ、イノシシ、シカの肉や内臓(レバ刺しやレアの焼肉等)が主になります。感染して発症すると、発熱、全身倦怠感、悪寒、嘔吐、食欲不振、腹痛等の消化器症状を伴いますが、症状がないこともあります。 感染した人が気付かずに献血した血液が輸血に使用された場合、患者さんがウイルスに感染し、重篤な症状を引き起こす場合があります。

出典:日本赤十字社ウェブサイト

2020年8月5日採血分より,日本赤十字社ではHEV NAT検査と呼ばれるE型肝炎検査を全国で行うようになりました(北海道では先行して2006年3月に試行的に開始).北海道では,HEV NAT検査を導入してから輸血後のE型肝炎症例の報告はなく,輸血の安全性に大きく寄与しているものと考えられます.

ただし,これはE型肝炎に感染している状態で献血し,ウイルス量が少ないために検査で陽性の結果が出なかったものの,輸血されるまでにある程度のウイルス量になって感染するという可能性もあるため(現在進行形の新型コロナウイルスのPCR検査のようなものを想像してみてください),献血前の問診で逐一確認をとるプロセスが重要になってくるという訳ですね.

ジビエと寄生虫・ウイルスとの悩ましい関係|全国に先駆けて北海道で献血血液のE型肝炎検査が実施された背景は?

北海道の献血者におけるE型肝炎ウイルス疫学調査

E型肝炎ウイルス(HEV)によって引き起こされるE型肝炎は、これまで熱帯地方に特有の風土病と考えられていましたが、最近では日本をはじめ欧米諸国においても世界的に広く存在することがわかってきました。

HEV感染者の多くは不顕性感染として自覚症状がないまま自然に治ってしまいますが、一部の人では急性肝炎を発症し、まれに重症化して死亡する場合もあります。特に海外の流行地域では妊婦がHEVに感染した場合に高い死亡率を示すことが報告されています。最近では移植患者がHEVに感染すると慢性化して肝臓の繊維化が急速に進行することや、一部の感染者では神経症状を起こすことも報告されるようになりました。

HEVは人だけでなくブタ、イノシシ、シカなどの動物にも感染するため、人獣共通感染症ウイルスのひとつとして注目されています。国内ではこれらの動物の生肉やレバー、ホルモンなどを十分加熱せずに食してHEVに感染する例が多数報告されています。

また、HEVに感染した献血者の血液を輸血された患者さんがE型肝炎を発症した例が初めて道内で確認されました。このため、北海道地区では研究的に献血者の方のHEV遺伝子検査を実施し、感染実態調査を行っています。

出典:北海道赤十字血液センターウェブサイト

E型肝炎ウイルスをもつひとが北海道に多い背景として,野生鳥獣のジビエ利用が多いことが関係しそうです.全国のジビエ処理加工施設の数から言っても,全国の中でも北海道が圧倒的に多いんです.


出典:農林水産省農作物鳥獣被害防止対策研修資料

野生鳥獣の食肉にかんしては,「と畜場法」や「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」の対象外で,捕獲・屠殺・処理加工施設搬入までのプロセスについては,マニュアル,ガイドラインを整備するところまでにとどまっています.ジビエであっても火がよく通っていれば問題ないですが,前述のように生肉の場合,土着しているE型肝炎ウイルスによる経口感染が起こります.E型肝炎ウイルスは,人獣共通感染症と認識されている唯一の肝炎ウイルスとして知られており,劇症化し死に至る危険もあります.

Q  シカやイノシシなど野生動物の肉等を生で食べても安全ですか?

A  シカやイノシシなど野生動物の肉等は生で食べないようにしましょう。
 HEVは妊婦や高齢者、HBVあるいはHCVの持続感染者に感染すると劇症肝炎を発症し、死亡する率が高いという研究結果があることから、妊婦及び高齢者は特に野生動物の肉等を生で食べることを避けるべきです。
 野生動物が人獣共通感染症や食中毒の原因となる病原微生物、寄生虫類等を保有している可能性は、常に念頭におく必要があります。過去にも、野生動物の肉の生食は腸管出血性大腸菌感染症やトリヒナ症及び肺吸虫症等の原因となっています。これらの病原体は一般に通常の加熱によって死滅することが知られていることから、野生動物の肉等を食べる際には中心部まで火が通るよう十分に加熱を行うことにより感染を予防することができます。
 なお、2003年に報告された事例は、シカ肉中から検出されたHEVの濃度が高いため、処理の過程で肝臓から汚染されたのではなく、シカ肉内に残留する血液中に含まれていたHEVが感染源となった可能性が高いと考えられます。

出典:食肉を介するE型肝炎ウイルス感染事例について|厚生労働省

ジビエと寄生虫・ウイルスとの悩ましい関係|ジビエを安全・安心に食べるには?

ジビエが原因で発生した感染事例としては,E型肝炎ウイルスのほか,カンピロバクター,サルモネラ,トリヒナ(旋毛虫),病原性大腸菌,ボツリヌス菌その他もろもろありますが,とにかくよく加熱して食べることに尽きます!

内部までの加熱以外のリスク低減策は今のところありませんので,

生肉を加熱せずに食べることは絶対にやめてください!

同じくE型肝炎ウイルスの感染の可能性が指摘されている豚肉の場合でも,生肉,特に内臓肉の生肉を食べることによってヒトへの感染が起きます.新型コロナウイルスもそうですが,E型肝炎ウイルスについても詳細なデータが不足しているために,明確な温度の基準をもって安全か危険かの線引きを設けるのが,現段階では難しいと言えます.

中心部までしっかり加熱することによって,ジビエを安全・安心に食べることができます!

今にして思えば.むかしの人たちはある意味,自らの身を挺して,どこまで手を加えれば安全に食べられるかを試してきました.最初から安全マニュアルがあった訳ではありませんものね.

先人の食経験の蓄積が,食の安全を形あるものに築き上げてきました.私たちも,過去の経験から学び,安全を担保しながら大いに食を楽しみたいものですね(K.T)♪