ビワをはじめ,アンズ,ウメ,アーモンドなどのバラ科植物の種子の中でも「仁」とよばれる部分には,かつてビタミンB17とよばれていたアミグダリンが多く含まれています.一部でビワの種子粉末やビワの種子を用いたお茶が市販されていますが,健康被害が懸念されており,日本医師会や農林水産省などが市民に向けて注意喚起を行っています.未熟な青梅にもアミグダリンが含まれていますが,梅干しや梅酒などに加工する過程において,健康影響は無視できる範囲まで低減できているものと考えられています.
アミグダリンはエタノールの水溶液に浸けることで低減することができます
アミグダリンが危険なのは,胃酸によってアミグダリンが分解されると有害物質として知られるシアン化合物(いわゆる青酸)ができるためです.実際,海外ではアンズの種子を一度に大量に食べたことによる健康被害や死亡例が複数報告されています.しかし,ビワやウメなどに含まれるアミグダリンは,エタノールの水溶液に浸すことによって低減できるとする報告も出されています.熟している果肉のみならず,未熟な果肉であっても調理・加工等によって食用に供することができます.
ビワの種子ががんに効くというのは誤りです
現在では,アミグダリンは生体の代謝に必須な栄養素とは言えず,欠乏症も報告されていないことからビタミンB17という呼称は適切ではなく,ビタミンの一種であるという言説も科学的に否定されています.また,ビワの種子ががんに効くという言説もありましたが, 1845年にはロシアで,1920年代には米国で,それぞれがん治療に使われた過去があったためと考えられます.しかし,米国国立衛生研究所(NIH)が追試を行った結果,アミグダリンは動物実験でほとんど抗がん活性を示さず,ヒト臨床試験でも抗がん活性を示しませんでした.そればかりでなく,むしろ肝障害,神経損傷に伴う歩行困難,発熱,昏睡および死といったシアン化合物中毒を起こす危険性があるという見解がNCI PDQ(がん情報サービスレファレンスリスト)に提示されており,米国食品医薬品局(FDA)は米国内でのアミグダリンの販売を禁止しています.また,日本の厚生労働省も,2017年9月に各検疫所に向け,天然にシアン化合物を含む食品にビワの種子を加え,輸入者への指導徹底を行っています.
バラ科の植物の種子に多く含まれるアミグダリンは,現在では機能性成分というよりもむしろ,健康リスクが懸念される成分と考えられています.急性毒性による健康被害を避ける意味で,食品として常識的な量を食べるレベルにとどめておくのが良いとおもいます.(K.T.)