牛乳は戦後,学校給食を通じて本邦でもひろく一般に普及するようになりました.豆類をはじめとする植物由来タンパク質の欠点を補うことができることから,良質なタンパク質源であるばかりではなく,食糧安全保障の面からも重要な食品のひとつと考えられています.
高齢者の栄養状態改善に効果
過去の生活習慣の積み重ねの結果,栄養状態が悪化することによって身体機能や生活機能の低下が課題となっている高齢者にとって,手軽でバランスの良いタンパク質源の摂取が生きる上での重要な鍵となっています.バランス栄養食である牛乳は,高齢者の生活の質の改善に効果的であり,運動による改善支援とともに牛乳の摂取によって栄養状態が改善されただけにとどまらず,BMIやアルブミン,HDLコレステロール,ヘモグロビンA1c,ヘモグロビン等の栄養指数が,ヒト臨床試験において栄養状態の良い高齢者であっても有意に改善したという報告があります.
*とはいえ,乳糖の分解能は年齢とともに低下しますので,いくら牛乳が良いといってもお腹を壊すまで飲まないよう,適量は各自で判断してください(笑).
カルシウムの補強の観点からも重要な牛乳
筋肉を動かし,歯や骨をつくるためにはカルシウムの摂取が必須です.
学校給食を日々摂取する機会がある成長期のみならず,骨の中のカルシウムが血液中に溶出していき,しだいに歯や骨が弱っていく段階に差し掛かっているシニア世代にとっても,カルシウムを多く含む「完全食」に近く,美味しい牛乳は欠かせない存在です.
牛乳にかんする実しやかな言説
牛乳にかんしては,実しやかなさまざまな言説が,ネットの中を駆けめぐっています.例えば,牛乳中に含まれているエストロゲン(女性ホルモン) が成人の健康に影響を与えるのではないかというものです.2018年12月のEuropean Journal of Endocrinologyに掲載されたレビュー論文「内分泌のメカニズム:市販牛乳中のエストロゲン」の中で,牛乳が成人の健康に脅威を与える可能性は低いことを示しています.また,レビューされた研究のほとんどが,牛乳のエストロゲン濃度が,成人に影響を与えるには低すぎることを示唆するものでした*.
*とはいえ,意識的に成長ホルモンを投与して成長促進させた牛から搾乳された牛乳を飲むかどうかは自己責任でお願いします.
牛乳を生産するうえで畜産環境を考えることは,持続性のある社会をめざす上で極めて重要です.乳業メーカーによっては,製造現場の見学と育成牛とのふれあいが可能なところもあります.本当においしい牛乳は良い環境のもとで飼育された牛から搾乳されて商品化されています.最近では数多くの種類から牛乳が選べるスーパーも増えてきました.飼育環境も千差万別です.お気に入りの牛乳を選んで飲む時代になってきたんでしょうね.機会があれば,牛乳工場の見学を兼ねて,持続可能な酪農と食に思いをはせるのも良いのではないでしょうか.(K.T.)