新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が続いています.
3月6日放送の日本テレビ「ZIP!」,3月5日放送のフジテレビ「めざましテレビ」などで,新型コロナウイルスの影響により,納豆の需要が高まっていると放送されていました.確かに,今日(3月7日)スーパーに買い物に行ったところ,目立って納豆が欠品していることに気づきました.
特定の食品を過剰摂取することによってCOVID-19にかかりにくくなるというエビデンスは,いまのところ証明されているものはありません.しかしながら,日常の食べ物に気をつけることによって,少しでもウイルス感染予防につながることがないかと思いを巡らすことも,人の性として理解できます.
そこで,今回は現在需要が急増している納豆の機能性について,論文サーチして調べてみました.
火付け役は国立がん研究センターの研究チームによるコホート研究
国立がん研究センターの片桐らは,1月に公開された一流医学雑誌,BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)で「納豆の摂取量が多いほど循環器疾患死亡リスクが低い」という成果報告を行い,これを複数のメディアが取り上げました.
今回の研究で、総大豆食品摂取量は死亡リスクとの関連がみられなかったものの、発酵性大豆食品の摂取量が多いと死亡のリスクが下がるという関連が明らかになりました。また、納豆の摂取量が多いほど循環器疾患死亡リスクが低いという関連を認めました。大豆にはたんぱく質や食物繊維、ミネラル、イソフラボンといった様々な成分が含まれ、血圧・体重・血中脂質などに良い効果を及ぼすことが先行研究から報告されています。特に、発酵性大豆食品は加工の過程で成分の消失が少ないことなどが、明らかな関連を認めた理由の一つとして考えられます。 一方、今回の研究では、大豆食品摂取量と総死亡の関連を正確に比べるために、把握できている他の 要因(年齢、地域、肥満度、喫煙、飲酒、身体活動など)について統計学的に調整しましたが、取り除ききれなかった要因や把握できなかった要因が、結果に影響した可能性があります。また、1回のアンケート調査から計算された摂取量で計算しており、追跡中の食事の変化については考慮していないという研究の限界があります。
出典:国立がん研究センターウェブサイト
新型コロナウイルス(COVID-19)感染後,劇症化すると肺炎を発症し死に至ることがあるということから「納豆の摂取量が多いほど循環器疾患死亡リスクが低い」という研究成果をもとに,納豆の購買行動に走るというのは,納豆の喫食が直接的にCOVID-19に効くということではないものの,関連性がまったくない訳ではない(まったくのガセとは言い切れない)というふうには感じます.
大豆食品、発酵性大豆食品の摂取量と死亡リスクの関連|国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
納豆が注目される理由は抗ウイルス活性を有する抗菌ペプチドの存在
納豆をはじめとする発酵食品は身体の免疫力を高めると言われ,マスコミや一般書籍等で多数紹介されています.例えば,2016年3月発行の「素材物性学雑誌」第27巻では,納豆抽出成分には,納豆菌添加前の煮豆,テンペ,米麹,納豆菌には見られない,納豆独自の強力な抗がん作用を示す抗菌ペプチドが含まれていることについて述べられています.「納豆に含まれる抗菌ペプチド」が直接「免疫力を高める」ことを証明するエビデンスこそありませんが,「納豆に含まれる抗菌ペプチド」が「抗ウイルス活性をもとに免疫調節に関与する」可能性を示唆しているというところくらいまでは言えそうです.
秋田大学理工学部の伊藤英晃教授は,納豆のタンパク質成分に抗がん,抗菌,抗ウイルス作用があると発見し特許を取得しています.
vol.05 理工学部 伊藤 英晃 Hideaki Itoh ~分子シャペロン、タンパク質、発酵食品中の有効成分から健康で豊かな秋田へ~|秋田大学
出典:秋田大学ウェブサイト
特許6464507 抗ウイルス剤、および抗菌剤|知財ポータルサイト IP Force
そもそも抗菌ペプチドとは何か
抗菌ペプチドとは,植物,昆虫からヒトを含む脊柱動物ヒトに至る,あらゆる生物に備わっている,微生物を排除する,生体防御に関わる自然免疫の重要物質として知られています.抗菌ペプチドは,HIV-1やインフルエンザウイルスなど,抗菌にとどまらず,抗ウイルス活性を示すことが報告されており,その応用が期待されています.
出典:北東北3大学連携 新技術説明会
「発酵食品由来抗がん・抗ウィルス及び抗菌剤」当日資料|科学技術振興機構
納豆に次いで抗菌ペプチドで注目されるラクトフェリン
ヨーグルト等の乳製品に含まれるラクトフェリンが,ノロウイルスやロタウイルス,消化管細胞に結合することによって,ウイルスの感染抑制の可能性を示唆する報告が出されています.
ラクトフェリン含有食品の摂取による風邪,胃腸炎への影響|日本補完代替医療学会誌
ラクトフェリンは多くの哺乳動物の乳に含まれており、ヒトの母乳、特に出産後数日の間に多く分泌される初乳に最も多く含まれているおり、赤ちゃんの健康維持のために必要な成分であると考えられております。また、母乳以外にも唾液や涙、鼻汁など体内の外分泌液、粘膜液、白血球の一種である好中球に存在し、外部から進入する細菌やウイルスからの攻撃を防ぐ防御因子のひとつと考えられています。
以下のブログ記事に,ラクトフェリンについて詳述しています↓
【情報更新】今知っておくべきラクトフェリンの効果!免疫力を高めて新型コロナウイルスの感染に備える(中国国家衛生健康委員会「新型冠状病毒感染的肺炎防治栄養膳食指導」を追記)|食と健康
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新型コロナウイルス(COVID-19)に対する治療薬は,開発が進んでいる米国でもまだ治験段階のようですが,抗ウイルス活性が期待される食品は,たとえ新型コロナウイルス(COVID-19)に対するエビデンスが整っていなくても売れるというのは,まったく根拠がないわけでもないというのが,論文サーチして得られた私の感想です.(K.T.)